住宅建築のための地盤調査と地盤改良工事を解説!知っておきたい種類と注意点
住宅は建築物の中では重量が軽い建築物に分類されています。そのため、地盤調査・地盤改良工事はあまり行われてきませんでした。しかし、1995年(平成7年)に起きた阪神大震災で、住宅建築でも適正な地盤の上に建築しないと地震被害が深刻になることがわかり、地盤調査、地盤改良工事の必要性がクローズアップされようになりました。
現在、住宅を建築する時には必ず地盤調査を行い、必要があれば地盤改良工事が行われるようになりました。住宅建築で行われている地盤調査、地盤改良工事の種類や注意点などを解説します。
地盤調査の種類と注意点
地盤調査や地盤改良工事は、建築物の基礎を作るために欠かせない調査、工事です。住宅の建築工事で主に使われる地盤調査の方法やそのメリット・デメリット、調査の注意点をまとめました。
地盤調査とは?
地盤調査は、建築物が建つ地盤の土質や地下水位、地盤の支持力(強さ)、沈下量を知るために行います。地盤調査の結果データを元に、地盤の性質、特徴を解析し、地盤改良工事の有無を判断し、地盤改良工事の計画や基礎設計が行われます。
地盤調査の方法は、建築物の構造や規模により違います。大きな建築物になると広範囲にわたる詳細なデータが必要になるため、事前調査を行ってから本調査を行うケースもあります。住宅は重量が軽く、規模も小さいため、本調査のみの場合がほとんどです。
地盤調査の種類
住宅を建築する際に行われる地盤調査の方法は主に2つで、スウェーデン式サウンディング試験と標準貫入試験です。
① スウェーデン式サウンディング試験(SS試験又はSWS試験)
・調査方法
調査機器のロッドを地盤(地面)にそう入し、貫入や回転、引抜きなどに対する抵抗から地盤の硬さや締り具合、土質の構成を調査します。
調査機器のロッドに付けるおもりの荷重を50N~1KNまで段階的に増やして、その都度地盤への貫入量を計測します。1KN以降は、ロッドについたハンドルを半回転させて、半回転ごとの貫入量を計測して調査を行います。
・メリット
スウェーデン式サウンディング調査のメリットは、費用が安いことと簡便な方法なため一日で調査が終わることです。また調査機器が小型なため、狭小の敷地や道路幅の狭い敷地でも調査が可能なこともメリットです。
・デメリット
スウェーデン式サウンディング調査のデメリットは調査範囲に制限があることです。N値15以上の堅い地盤は調査ができません。また、10mより深い地盤も調査ができません。それは、調査機械の性質上、調査深度が深くなるほど摩擦抵抗が大きくなり、調査結果にばらつきが発生するためです。
土壌サンプルが採取できないこともデメリットです。土壌サンプルが採取できないため、地質の判定(粘土質・砂質・レキ質など)は推定となるため、調査結果の解析には注意が必要です。
・注意点
スウェーデン式サウンディング調査はロッドを地盤にそう入して調査するため、ロッドが大きな石にあたると正確な調査ができません。大きな石にあたった場合は、調査地点の周囲で再調査する必要があります。
一般的な調査位置は、建築物の4隅と中心の5ヶ所です。住宅の配置を決定してから調査を行い、配置が大きく変わる場合は、再調査を検討する必要があります。
盛り土を行っている土地の場合、盛り土下の地盤を調査するため、調査の基準高さ、深度と設計GLとの関係を確認し、調査深度が足りないことがないように注意しましょう。
スウェーデン式サウンディング調査の場合、調査結果によっては追加調査が必要なことがあります。調査結果に不明瞭、不安がある場合は、追加調査があることを認識しておきましょう。
② 標準貫入試験(ボーリング調査)
・調査方法
調査機器のボーリングロッドを地盤(地面)にそう入して行う調査方法です。ボーリングロッドの先端には標準貫入試験用サンプラーを取り付け、調査しながら土壌サンプルを採取します。
高さ76±1cmから63.5±0.5kgのドライブハンマーを自然落下させて、打撃貫入量を調べます。1cmの予備打ちと30cmの本打ちを行い、30cm貫入するのに要する打撃回数を調査します。打撃回数はN値といい、1mごと測定を行います。打撃回数の最大は50回までで、50回に達した時は累計貫入量を測定します。
標準貫入試験は、現場調査後に室内試験を行います。室内試験では、主に粒度試験、圧縮試験、せん断試験がおこなわれます。
・メリット
標準貫入試験のメリットは、サウンディング調査とともに土壌サンプルも採取できるため地質調査ができることと10mより深い層や堅い地盤の調査ができること、幅広い建築物の調査ができることです。また、地盤調査に幅広く用いられている方法であるため、過去のデータが多くあり、比較・検討が可能で調査結果の精度が高いこともメリットです。
・デメリット
標準貫入試験のデメリットは、調査の規模が大きいため調査費用がかかることと調査するために広いスペースが必要なことです。また、調査ポイントが少ないと地質の水平分布の把握が難しいため、確実な調査を行うためには広い範囲数多く調査するため、調査時間がかかることです。
・調査の注意点
標準貫入試験の調査結果は、土質により判定基準が違います。砂質土なのか粘性土なのか、土質を把握した上で調査結果を判定します。また、N値は小さく出たり、大きく出たりする傾向があるので、土質の状況(密度や礫の存在など)確認が必要です。
相対密度の緩い砂はボーリング機器のロッドが長くなるほどN値が小さく出る、相対密度の密な砂はロッドが長くなるほどN値が大きく出る、径10mm以上の礫があるとN値が大きく出るなどの傾向があります。
標準貫入試験は調査日数がかかり高額なため、住宅の場合は構造計算書が必要な3階建て住宅や鉄骨造、鉄筋コンクリート造の場合にもちいられている調査方法です。
地盤調査のセカンドオピニオン
スウェーデン式サウンディング調査で地盤調査行い地盤改良工事が必要となる場合、別会社に地盤調査を再依頼するケースや地盤改良工事の施工会社があらためて地盤調査を行うケースが最近増えています。
住宅建築で地盤調査のセカンドオピニオンが行われる理由は、主に4つあります。
- 1回1社の調査では不安なため。
- 調査費用がリーズナブルなので再調査しやすいため。
- 総建築費に占める地盤改良工事費用の割合が高いため、地盤改良工事を再検討したいから。
- 地盤改良工事を施工する会社が地盤保証をつけるために再調査を行なうため。
地盤調査の分析と基礎図面
地盤調査結果の分析は、調査会社から調査報告書という形で提出されます。標準貫入試験の場合は、調査報告書と共に地盤サンプルが一緒に提出されます。
地盤調査結果の分析を元に、地盤改良工事の有無や地盤改良工事方法の検討、基礎設計を行います。地盤改良工事は基礎設計図を元に地盤改良工事計画をたて、基礎設計図は計画された地盤改良工事の内容を精査した上で必要な変更を行います。地盤改良工事と基礎設計図は相互関係が深いため、お互いを注意深く確認する必要があります。
地盤改良工事が必要かどうか判断する基準は、2つのケースがあります。1つは、地耐力(=地盤が建築物を支える強さ)が20~30KN/㎡以下の軟弱地盤と判定された場合です。もう1つは、敷地やその周辺地域が盛り土で造成された土地や埋め立て地、液状化の可能性がある土地などで、周辺地域で地盤改良が必要と判定された場合です。
住宅建築の主な地盤改良工事は、湿式柱状改良工法、鋼管杭工法、表層地盤改良工法の3つです。
地盤改良工事1:湿式柱状改良工法
湿式柱状改良工法は、木造住宅で一般的に行われている地盤改良工事です。住宅の基礎直下に固化材を混ぜた強固な地盤を円柱状に作り、地盤を補強します。湿式柱状改良工法の施工方法とメリット、デメリット、施工の注意点をまとめました。
湿式柱状改良工法の施工方法
湿式柱状改良工法は、基礎直下の地中に円柱状の固めた杭(柱)を作り、建物(住宅)を支えます。一般的に軟弱地盤の深さが地中2m~8mの場合に用いられます。
① 事前準備
地盤改良図面・基礎図面(伏図・断面図など)から、建物(住宅)の位置と設計GL、周辺の構造物を確認し、杭芯の計測を行います。工事に必要な水を確保し、施工機械や固化材を搬入します。
② プラントの設置
杭を打つ前に、プラント(セメントミルクを生成する設備)を設置し、給水や固化材の準備をします。
③ 機械の設置
杭を施工するための機械と杭を打つための杭芯を設置します。
④ 注入及び混合
基礎直下の地盤に直径50~80cm(住宅の場合)ほどの穴をあけ、地耐力が良好な地盤まで掘削します。(建物の規模や地盤の状況により直径のサイズが変わります。)
掘削する時にセメント系の固化材に水を混ぜ、スラリー状にしたセメントミルクをポンプで地中に圧送します。(※スラリー状:個体が液体に溶解することなく、固体と液体が2層になっている状態)
⑤ 撹拌及び打設
セメントミルクを注入しながら、土と撹拌し円柱状の堅い地盤を作ります。
⑥ データ管理
撹拌及び打設施工中は、撹拌機械の回転数や深さ、セメントスラリーの流量を常に専用機器で管理します。
⑦ 再撹拌及び引上げ
撹拌及び打設が予定していた深度まで到達した後は、撹拌をしながら機械を引き上げ、全体を再撹拌し、最後に杭頭部分の再撹拌を行い打設が完了します。
⑧ 杭頭処理及び養生
打設終了後、杭頭の処理を行い、土を埋戻し所定の養生期間を置いて、工事完了となります。
湿式柱状改良工法のメリット
湿式柱状改良工法の主なメリットは、主に7つです。
① 地盤改良工事の中では工事費用が比較的リーズナブルで、鋼管杭工法と比較すると2割ほど安い。
② 固化材が入手しやすく、対応できる土質範囲が広いため、施工しやすい。
③ 機械により撹拌する工法のため、低騒音や振動に対する規制がなく施工しやすい。(騒音規制法や振動規制法の基準に適合しているため=規制がない)、
④ 短期間で強度を得られるため、工期に余裕がもてる。
⑤ 地盤改良後の地盤強度を長く維持できる工法のため、安心できる施工方法である。
⑥ 地盤を支持する強固な地盤がなくても施工できる場合があるため、対応できる地質範囲が広い。
⑦ 改良深度が浅い場合は、小型の機械でも施工が可能なこと。
湿式柱状改良工法のデメリット
湿式柱状改良工法のデメリットは、主に7つです。
① 改良深度が深い場合や狭小の敷地、搬入する道路の幅が狭い敷地、高低差がある敷地は施工ができないケースがある。
② 柱状改良工事は水が必要な工事のため、早期に給水設備(仮設水道)が必要になる。敷地内に仮設水道が設置できない(給水申請が間に合わないなど)場合は、工事が延期されるケースがあるので事前に確認が必要。
③ 軟弱層のほとんどが腐植土の場合、改良工事をしても強度が得られないケースがある。事前に配合試験を実施して、固化材の添加量を確認しておく必要がある。
④ 地下に水脈がある場合、撹拌が困難になる。
⑤ 産業廃棄物が混在することが予想される地盤では、撹拌作業に制限が出る。そのため、事前に良質な土に置き換えるなどの対応が必要。
⑥ 住宅の建て替えで既設の柱状改良杭が再使用できない場合、改良杭は産業廃棄物となるため、撤去費用がかかり、その費用が高額になる。
⑦ 土地を売却する際、柱状改良杭の撤去費用を買い主から求められるケースがある。
施工の注意点
湿式柱状改良工法の場合、基礎直下に円柱状の改良地盤を作ることで地盤補強を行います。そのため、地盤改良工事を検討する時には、住宅の間取りの決定及び基礎設計が完了している必要があります。柱状地盤の位置が基礎とずれていては意味がありません。地盤改良の位置に変更がないことを確実に確認しましょう。
杭の柱頭は、基礎からの荷重を確実に杭に伝えるために、基礎の下端に接していなければなりません。柱頭高さのレベル出しに細心の注意が必要で、設計GLや現場でのKLBM(仮ベンチマーク)の確認及び基礎施工業者立会いによる杭頭高さの確認が必要です。
地盤改良する杭はまっすぐ打つことが、良好な施工となります。注入及び撹拌機械を高い鉛直精度で管理することで、まっすぐな杭を施工することができます。
地盤改良工事2:鋼管杭工法
木造住宅で一般的に行われている鋼管杭工法は、小口鋼管杭工法です。地中深くにある堅い地盤(支持地盤)に小口径の鋼管杭を打ちます。その鋼管杭が建物(住宅)を支えます。鋼管杭の施工方法とメリット、デメリット、施工の注意点をまとめました。
鋼管杭工法の施工方法
鋼管杭工法は、基礎直下の地中深くにある堅い地盤(支持地盤)まで打った鋼管杭が建物(住宅)を支えます。地耐力が高い良好な地盤(支持地盤)が深い場合に適した工法で、地中30mまでの地盤補強に用いられます。また、湿式柱状改良工法や表層改良工法では地盤改良工事ができない地盤に適している工法です。
鋼管の先端に取り付けられたスパイラルフィンを地盤(地面)に回転圧入して鋼管杭を打ち込みます。鋼管杭先端の支持力と鋼管杭周面の摩擦力によって、建物(住宅)を支えます。
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① 事前準備
地盤改良図面・基礎図面(伏図・断面図など)から、建物(住宅)の位置と設計GL、周辺の構造物を確認し、杭芯の計測を行います。工事中振動や騒音があるため、工事前に近隣挨拶を行い、施工前に敷地全体や近隣建物、ブロックや塀などの工作物の写真撮影を行っておきます。
② 杭材及び施工機械搬入
搬入された杭材は、荷崩れ防止のために枕木などを使い仮置きし、養生をしておきます。この際、杭の本数が足りないことがないように、確実に本数を確認します。同時に施工機械の搬入を行い設置します。
③ 杭芯へ鋼管杭をセット
施工機械にスパイラルフィンを溶接して取付けます。鋼管杭を吊りこみセットし、所定の位置に固定し、杭の鉛直精度を確認します。
④ 鋼管杭の圧入
鋼管杭が支持地盤に達するまで、圧入を行います。
⑤ 鋼管杭の継ぎ足し
改良深度が深く杭の継足しが必要な長い杭の場合、下杭の上に上杭を継ぎ足します。上杭をセットしたら、杭に裏当て金具をセットし溶接を行い、支持地盤に達するまで圧入を続けます。
⑥ データの測定と管理
鋼管杭が支持地盤に達すると不可力がかかり貫入値が変化します。この状態になったら杭の強度に注意しながら、予定設計深度まで鋼管杭を貫入させます。鋼管杭が支持地盤に達したら、さらに回転貫入させて、データの測定を行います。計測されたデータで鋼管杭の支持力を確認後、杭を定着させます。
⑨ 杭頭処理
打設終了後、杭頭の加工処理を行い、工事が完了となります。
鋼管杭工法のメリット
鋼管杭工法のメリットは、主に6つです。
① 住宅で主に行われる小口鋼管杭工法は、湿式柱状改良工法より小さな機械で施工できるため、重機が搬入しにくい狭小敷地や道路の幅が狭い敷地でも対応可能なケースがある。
② 柱状改良工法のような養生期間が不要で、工事も1~2日で終わるため、基礎工事にすぐ着工できる。
③ 杭の深度を地盤の位置により変えることができるため、軟弱地盤下の硬い地盤(支持地盤)の傾斜や起伏に対して施工対応が可能なこと。
④ 乾式工法のため、地下水による施工トラブルが起きにくい。
⑤ 鋼管杭の先端支持力と鋼管周面摩擦力によって建物の重量を支えているため、重量がある建物でも支えられ、施工後の地盤強度が他の工法と比較すると高い。
⑥ 鋼管杭の体積に相当する土が杭周辺に締め付けられるため、残土が発生しない。そのため、残土処分費用がかからず、現場も地盤の盛り上がりがほとんどないため、現場がきれい。
鋼管杭工法のデメリット
鋼管杭工法のデメリットは、主に5つです。
① 同じ条件で地盤改良工事を行った場合、湿式柱状改良工法より工事費用が高くなる傾向がある。
② 硬い地盤(支持層)のある地盤でなければ施工出来ない。
③ 工法の種類(施工会社による)によっては、工事中の振動と騒音が発生するため、近隣への挨拶など、配慮が必要。
④ 比較的新しい盛土造成地などの圧密沈下が大きい地盤には向いていない。このような地盤に鋼管杭工法を採用すると、建物(住宅)は沈下することはないが、建物(住宅)周囲の地盤だけが下がる現象がおこり、杭の抜け上がりが起こる場合がある。
⑤ 地盤に産業廃棄物などが混在する埋土の場合、鋼管杭が破損したり、杭芯がずれたりする可能性が高いため、事前に良質土と置き換える必要があり、費用がかかる。廃棄物の撤去が難しい場合は施工ができないケースがある。
施工の注意点
鋼管杭工法は騒音や振動がともなうため、敷地周辺の地盤によっては、近隣に影響が出るケースがあります。施工後に「隣地の外壁にひび割れが発生した」、「境界ブロックが傾いた」などのトラブルがあったときに、地盤改良工事の影響を確認、説明できるように、工事前と工事後の近隣写真を撮影しておきましょう。
鋼管杭の施工では、貫入深度が深くなると杭を継ぎ足します。継ぎ足しにより鉛直精度を保つのがむずかしくなるので、下杭と上杭の継ぎ足しをする際の施工精度を高く保つ必要があります。
鋼管杭工法の場合、基礎直下に施工する鋼管杭が支持地盤に達することで建物(住宅)を支えています。そのため、杭先端が支持地盤に確実に達していることをデータ計測で確実に確認することが重要です。杭が支持地盤に達していない場合、地盤沈下の原因になる場合があります。
鋼管杭は基礎直下に施工します。そのため、地盤改良工事を検討する時には、住宅の間取りの決定及び基礎設計を完了している必要があります。鋼管杭の位置が基礎とずれていては意味がありません。鋼管杭の位置に変更がないことを確認しましょう。
杭の柱頭は、基礎からの荷重を確実に杭に伝えるために、基礎の下端に接していなければなりません。柱頭高さのレベル出しを確実に行いましょう。設計GLや現場でのKLBM(仮ベンチマーク)の確認及び基礎施工業者立会いによる杭頭高さの確認が重要です。
地盤改良工事3:表層地盤改良工法
表層地盤改良工法は、地盤の表層部に軟弱地盤層が分布している場合に行われる地盤改良工事です。基礎下の地盤をセメント系固化材と混合して、必要な地盤の強度(地耐力)を確保します。表層地盤改良工法の施工方法とメリット、デメリット、施工の注意点をまとめました。
表層地盤改良工法の施工方法
表層地盤改良工法は、まず表層の軟弱地盤部分を掘削します。掘削した土とセメント系固化材を混ぜ、強度を確保した地盤を作ります。建築物(住宅)の荷重を分散させて地盤強度を安定させる工法のため、改良厚さは300mmから1000mmです。軟弱地盤層がGLから-2mまでの浅い場合に使われます。改良範囲が浅いため、「浅層地盤改良工法」ともいわれています。
改良する地盤の深度を決定する改良地盤下の良好地盤は、粘性土でN値>3、砂質土でN値>4が連続して存在する地盤とされています。
① 事前準備
地盤改良図面・基礎図面(伏図・断面図など)から、建物(住宅)の位置と設計GL、周辺の構造物の確認を行います。構造物と地盤改良部分が近接している場合は、養生などの準備も行います。施工前に近隣挨拶、路面養生を行います。
② 資材搬入
固化材の搬入が行われたら、所定の配合通りの数量があるか確認します。
③ 地盤表層の土の鋤取り
表層地盤改良工事は、建物(住宅)の外壁面から50cm外側までの範囲を行います。改良する地盤は、下層部分の土を残して上部の土を鋤き取り、鋤取りした土は現場内に仮置きしておきます。鋤取り後、改めて支持層(強固な地盤)の確認を行います。
④ 固化材散布及び混合撹拌
改良する地盤の下層部表面に固化材を均等に散布し、地盤改良する土と固化材を混合、撹拌します。
⑤ 転圧
固化材と改良土の撹拌がむらなくできたら、ローラーや重機などを使用して土を締固めます。転圧を完了させるときには、地盤レベルを調整しながら転圧を行います。
⑥ 仕上げ作業
転圧終了後、整地を行い地盤強度が発現するまで養生期間をとります。
表層地盤改良工法のメリット
表層地盤改良工法の主なメリットは7つです。
① 改良する地盤層がGLより-1.5m以内の場合は、工事費用が他の工法と比較すると抑えることができる。
② 住宅の様な工事規模が小さい施工の場合は、工事期間が短く1~2日で工事が完了する。
③ 他の工法と比べると、小型重機での施工が可能なため、狭小地や道路の幅が狭い敷地でも施工が可能なこと。
④ 改良地盤の中にコンクリートや石が混入していても施工が可能なこと。
⑤ 原地盤を改良する為、他の工事のように残土を搬出する必要がないため、作業効率が良い。
⑥ 固化材が入手しやすく、適用できる土質範囲が広いため、施工しやすい。
⑦ 産業廃棄物が混在する地盤でも改良が可能で、廃棄物等の撤去をしながら施工できる。
表層地盤改良工法のデメリット
表層地盤改良工法の主なデメリットは、8つです。
① 改良地盤がGL-2m以深になると、湿式柱状改良工法より工事費用がかかるケースがある。
② 他の建築物(ブロック塀)などの近くで施工を行うには、養生や山留めの費用が別途かかるケースがある。
③ 改良範囲が境界ブロックや隣地、隣家、道路などに影響が出る場合は、施工出来ないケースがあるため、施工が可能か検討する必要がある。
④ 地盤改良する地盤より地下水位が高い場合、混合撹拌が困難になるため施工できない。
⑤ 高低差が大きい敷地は施工ができない。
⑥ 地盤改良する地盤下の安定地盤が不均一な場合は施工ができないケースがある。
⑦ 改良地盤が腐植土の場合は、改良を行っても強度が得られないケースが多いため、事前に固化材の配合試験を行い、強度が得られる配合を検討、決定しておく必要がある。
⑧ 作業員の技術差に施工精度が左右されやすい工法のため、経験を積んだ作業員でないと、仕上がり強度にむらができやすい。
施工の注意点
表層地盤改良工事は、基礎下で建築物(住宅)の外壁より50cm外側までの範囲の工事を行います。また、表層地盤改良の厚さは基礎砕石下端までとなります。GLやKLBM、基礎高さの確認を確実に行うようにしましょう。
地盤改良範囲と掘削深さを確認する時には、周辺の構造物(境界ブロックや隣地外壁など)に影響はないか、養生や山留めの必要はないか確認をするようにしましょう。
浅層地盤改良工法では、固化材を混合撹拌後の転圧は過剰転圧にならないように注意が必要です。
狭小住宅で浅層地盤改良工法を採用する際は、外部配管や埋設設備の位置を確認し、施工状況に問題がないか工事前に確認が必要です。
トラブル事例
地盤改良工事でトラブルが起きた事例と対処方法をまとめました。トラブル事例を知ることで、体験を共有し、トラブルが起きない工事管理と施工精度が高い現場を目指しましょう。
柱頭の高さが違うという基礎施工業者とのトラブル
湿式柱状改良工事を行った現場で、柱頭の高さが予定している基礎のベース下端より高いというトラブルがありました。設計GLとKLBM(仮ベンチマーク)の確認不足が原因でした。地盤改良業者と基礎業者立会いのもと、再度すべての杭のレベルを確認しました。結果、基礎の高さで調整することが可能な範囲だったので、基礎工事で高さ調整し、予定通りの設計GL設定で工事を進めることができました。
柱状改良工法や鋼管杭工法の場合、杭頭の処理が後工程の工事の精度に大きな影響をあたえます。高さの確認を確実に行い、残土を杭頭に盛るなど後々不同沈下の原因になる施工がないように注意が必要です。
振動による隣地とのトラブル
住宅の完成まであと少しという時期に、隣地の方から「地盤改良工事の振動がひどく、外壁にひびが入り、浴室のタイルもひび割れが増えた」というクレームがありました。隣地よりクレームがあった時期が地盤改良工事を行ってから3ヶ月以上経っており、トラブルの解決に時間を要しました。地盤改良工事が終わった直後にクレームがあったなら、改良工事前の写真と現地を比較して対応できたのですが、地盤改良工事が終了してから、3ヶ月たってからのクレームだったので、対処に時間がかかりました。
隣地の方は「外壁のひび割れの原因は地盤改良工事にある」と主張されていました。施工中の写真を集め、外壁の状況を時間経過別にまとめ、比較しました。地盤改良工事を行う前と工事直後に隣地の外壁や境界ブロックの写真が撮影されていたため、隣地の方と話し合いを持つことができました。
工事前と工事後の写真を比較すると、外壁ひび割れの状況に変化がなかったため、外壁のひび割れは地盤改良工事によりできたものでないという判断ができ、隣地の方にも納得していただくことができました。また、外壁のひび割れが増えていないため、浴室のタイルのひび割れも不問となりました。
地盤改良工事の影響が周辺にどのぐらい影響するか、現場ごと違います。写真を色々な角度から撮影しておくことで、トラブルを円満に解決することができます。
残土処分のトラブル
湿式柱状改良工事を行った現場で、地盤改良工事が終わっても残土や廃棄物処分がされないうちに基礎工事がはじまり、基礎工事業者とトラブルになりました。基礎の掘削を行いたくても基礎工事の残土を仮置きする場所がないため工事が進まないからです。
地盤改良工事業者と連絡を取ると、工事費用が安いため、残土処分するトラックを予定通り手配ができず遅れているという返答でした。早急に手配をして処分しましたが、基礎工事に遅れが出てしまいました。
地盤改良工事は廃棄物や残土の処分までが工事です。事前にいつまでに処分を行うか確認し、確実に処理をしたことを現場で確かめるようにするとトラブルを防ぐことができます。
基礎図面変更によるトラブル
基礎工事業者から、「鋼管杭の位置と基礎の位置が合わない場所がある」という連絡を受け、現場で確認すると、基礎がない部分に鋼管杭が施工されていました。トラブルとなった原因は、間取りの変更に伴い基礎伏図が変更になっていたこと、平面図・基礎伏図の変更が現場まで伝わらず、変更前の図面で地盤改良工事を行ったことでした。
基礎の掘削を行う前にトラブルが判明したため、鋼管杭の上に新たに基礎を増やす図面変更を行い、予定通り基礎工事を進めることができました。鋼管杭上に基礎を増やしたため、基礎図面の変更以外に構造計算書や土台伏図・構造金物図などを再チェックし、必要な変更を行いました。
図面の変更が現場まで伝わっていないことで起きたトラブルでした。施工がはじまったら、どんなに小さな変更でも現場に伝えないと工事が中断してしまいます。図面変更の対応は、社内全体で細心の注意をはらうようにしましょう。
地盤改良工事の重要性と施工精度
地盤改良工事は、建物(住宅)の基礎となる重要な工事です。また、地盤改良工事の施工精度が建物(住宅)の施工精度や仕上がりに大きく影響します。住宅の地盤改良工事の基本を理解し、トラブルとなる施工とならないように細心の注意と配慮をしましょう。
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