半自動溶接機を使う4つのメリット|使用に適したケースやデメリットも紹介
目次
半自動溶接機とは
半自動溶接機とは、セットされた溶接ワイヤーが自動供給される手動溶接機です。
アーク溶接はTIG溶接の非溶極式とそれ以外の溶極式があります。溶極式は半自動溶接機を利用する方法と、アーク棒を使用した被膜アーク溶接です。
半自動溶接機を使用すると被膜アーク溶接よりスピードが速く、大型車両のメンテナンス作業や建築現場など広範囲の溶接に利用されます。
手溶接との違い
半自動溶接機と手溶接の違いは、作業スピードです。
半自動溶接機は溶接ワイヤーが自動供給され、スピーディーに効率よく作業を継続できます。手溶接はアーク棒が短くなればトーチ交換の必要があり、長時間の作業は対応できません。
手溶接の機械は小型で作業場所を選びませんが、半自動溶接機は、狭い場所での作業は苦手です。
半自動溶接機の種類2つ
半自動溶接機の種類は、シールドにガスを使用するガスシールドアーク溶接と、ガスを使用しないノンガス溶接の2種類です。
ガスを使用するタイプは使用するガスの名前で分類します。それぞれ溶接できる金属が異なり、ワイヤーも変えて対応します。
ガスシールドアーク溶接機
ガスシールドアーク溶接とは、加熱された金属の酸化反応を防ぐために不活性ガスでシールドを作る方式です。
風によって不活性ガスの覆いが吹き飛ばされることもあり、屋内の作業に適した方法です。スパッタが少なくビード外観も損なわれません。ヒュームの発生も少なく、体への負担が少ない点もメリットです。
ガスシールドアーク溶接は、CO2とMIG、MAGの3つの方法があります。
CO2溶接
CO2溶接とは、シールドガスに二酸化炭素などの炭酸ガスを使用する方法です。
炭酸ガス自体がアークと化学反応を起こしアークが細くなりますが、熱エネルギーの集中により溶け込みが深まり、強度を増します。ガスシールド方式の中ではスパッタが多く、外観も悪くなる点がデメリットです。
炭酸ガスは価格が安いので、半自動溶接機で1番多い溶接方式です。鉄(軟鋼)の溶接に利用します。
MIG溶接
MIG溶接はシールドガスにアルゴンまたはヘリウムを使用する方法です。
溶接スピードが早く、薄板に適し、きれいな仕上がりです。CO2溶接と比較してアークが広がるので、溶け込みが浅くなり強度が弱くなります。
欧米ではアルゴンが安価なので多く利用されますが、日本では高額であまり利用されません。ステンレス鋼やアルミニウム合金、耐熱合金鋼など特殊な金属の場合にだけ使います。
MAG溶接
MAG溶接はシールドガスに炭酸ガス20%とアルゴン80%の混合ガスを使用します。
炭酸ガスとアークの相性の良さを利用して、熱エネルギーを集中させ溶け込みを深くし、強度を高めます。MIG溶接の欠点をCO2溶接で補う方法です。CO2溶接よりはスパッタが少なくきれいに仕上がります。
炭酸ガスが反応するので、チタンやアルミニウムなど非鉄金属には不向きで、鉄(軟鋼)や高張力鋼に利用します。
ノンガス溶接機
ノンガス溶接機は、ガスを使用しない半自動溶接機です。
溶接にアーク安定剤や脱酸素剤を含んだノンガス用のフラックスワイヤーを使用します。ガスシールドアーク溶接よりもスパッタやヒュームが多く、アーク溶接のような仕上がりです。主に鉄の溶接に利用し、スパッタ防止スプレーで対策する場合もあります。
ガスボンベが不要で、風によるシールドガスの影響もなくどこでも作業できます。
半自動溶接機を使う4つのメリット
半自動溶接機を使うメリットは、比較的簡単にできることや溶接速度が速いことです。
溶接ワイヤーが自動供給されるので、比較的経験の浅い人でも溶接作業をスムーズにこなせます。使用するガスを変えれば、様々な金属に対応可能です。
溶接速度が速く、広範囲の作業もこなせるので、公共工事や建築現場、トラックの修理にも利用できます。
1:比較的簡単にできる
半自動溶接機を利用すると、設定をすれば自動で溶接作業を進められます。
ワイヤーが自動供給される他に、溶接電流や電圧はダイヤルで簡単に設定できます。スイッチを押せば、溶接作業に集中する環境が整います。両手でトーチを保持するだけなので、初心者でも1人で作業可能です。
アーク溶接機と比べて本体は大きく家庭用には不向きですが、作業は半自動溶接機のほうが楽にこなせます。
2:ノンガスワイヤーを使用すればガスが不要
ノンガスワイヤーを使用すると、シールドガスが不要になり、身軽に作業できます。
ノンガスワイヤーはガスシールドアーク溶接にも利用されるフラックスワイヤーを使用します。フラックスワイヤーは、脱酸剤やアーク安定剤、合金材やスラグ形成材などの粉末を、薄板をパイプ型に丸めた中に充填したものです。
内包されているフラックスによってスパッタ量を減らし、溶接速度を速める効果もあります。
3:条件が合えば溶接速度が速い
半自動溶接機の溶接電流や電圧の設定条件が合えば、溶接のスピードアップが可能です。
溶接は熟練を要する技術ですが、デジタル式の半自動溶接機を使えば、自動的に作業環境を準備でき、長年の経験が必要な条件整備を機械に任せられます。
フラックスワイヤーは溶接速度を速めるための技術も詰め込まれているので、作業方法と金属の相性が合えば、手作業より溶接速度を速められます。
4:さまざまな金属で利用できる
半自動溶接機で使用するガスを変えると、さまざまな金属の溶接が可能です。
鉄や高張力鋼に強いCO2溶接やMAG溶接、アルミニウムなど非鉄金属に向いているMIG溶接など、溶接方法の選択で多くの金属溶接作業をカバーできます。
1台で全てのガスを利用でき、ノンガス溶接にも対応できる機種もあります。ガスボンベの使い分けで、複数の機械は必要ありません。
半自動溶接機の3つのデメリット
半自動溶接機のデメリットは、非溶極式のTIG溶接と比較すると、仕上がりの外観が見劣りすることです。
溶極式はどの方法を利用しても、TIG溶接と比べるとヒュームなどが多くなります。特にノンガス溶接は顕著に現れます。
あらかじめ設定が必要な点もデメリットです。作業を進めながら作業環境に合わせて変更できる柔軟性が乏しく、設定が合わなければ作業スピードが極端に遅くなります。
1:ノンガス溶接機の場合ヒュームやスパッタが多い
半自動溶接機のノンガス溶接は、他の溶接方法と比べてヒュームやスパッタが多く発生します。
ヒュームは粉塵を指しますが、溶接ヒュームは溶接時に発生する煙のようなものです。溶けた金属が蒸気になったもので、吸い込むと人体に悪影響を及ぼします。
スパッタは、溶接時に発生する火花に交じって飛んだ金属の粒が溶接周りにくっついて残ったもので、塗装作業を妨げるため手作業で取り除きます。
2:溶接条件を合わせる必要がある
溶接条件を合わせなければ、半自動溶接機はうまくいかない場合もあります。
溶接条件は金属の材質の他に、板の厚さやフラックスワイヤーなどの溶接材料があります。半自動溶接機で重要なのは、溶接パラメーターと呼ばれる、電流や電圧などです。
板の厚さや下向きか上向きかなどの溶接姿勢でも、適した電流や電圧は異なり、条件が合えばスパッタも少なく、ワイヤーの供給も安定します。
3:TIG溶接と比べて仕上がり具合に劣る
半自動溶接機はヒュームやスパッタが多いため、ヒュームやスパッタの発生しないTIG溶接と比べて仕上がり具合が劣ります。
TIG溶接は熱に強いタングステンを電極にして、周囲をアルゴンの不活性ガスで囲い、溶接部分を無酸素状態にして溶接するので、半自動溶接機のようなヒュームやスパッタが発生しません。
TIG溶接は半自動溶接と比較すると時間がかかりますが、ステンレスやアルミなどの外観を重視する製品にはTIG溶接が用いられます。
半自動溶接機を選ぶときのポイント3つ
半自動溶接機を選ぶときのポイントはガスの使用の有無と溶接する材料、入力電圧です。
一般的に半自動溶接機はガスを使用するタイプと使用しないタイプに大別されます。兼用タイプもありますが、わずかです。溶接する材料の種類や厚さによって溶接方法が異なるので、多く利用する材料に合わせて選ぶこともできます。
入力電圧の違いは作業環境です。使用する場所の電圧を事前に確認します。
1:ガスシールドアーク溶接機かノンガス溶接機か
半自動溶接機は、ガスシールドアーク溶接機かノンガス溶接機のどちらにするかが選び方のポイントです。
ガスシールドアーク溶接機はガスを使用した全ての方法に対応するか、CO2溶接単体、またはMIG溶接とMIG溶接兼用タイプに別れます。CO2溶接単体は高額でプロ向きです。鉄と非鉄金属両方に使いたい場合は、兼用タイプがおすすめです。
ノンガスタイプは小型でどこでも使用できますが、仕上がりが劣ります。
両者のランニングコストも確認しておくのがおすすめ
溶接機は本体価格の他にランニングコストの確認も重要です。
ガスシールドシールドアーク溶接機は高額でガスボンベなど初期費用が多くなり、ノンガス溶接機は小型で低額です。しかし、消耗品のフラックスワイヤーが高額でランニングコストはかかります。
どちらの場合もヒューム対策の保護具が必要で、ノンガスは特に重要です。長期的な観点で炭酸ガスよりアルゴンガスが高価な点も考慮します。
2:溶接する材料の種類
溶接する材料の違いは、半自動溶接機を選ぶ重要なポイントです。
主にアルミニウムやステンレスに使用する場合は、MIG溶接機を選択します。その際、金属に合わせて専用ワイヤーが必要です。他の方式のものは鉄が中心なので、仕上がりの違いやコストで選びます。
対応するワイヤー径は多くが0.8~1mmでほぼ同じですが、オプションで薄物用に細いワイヤー対応の溶接機もあります。
3:入力電圧
溶接機の入力電圧は100Vと200Vがあります。
2mm程度の薄い金属が多い場合は100V、6mm程度の厚物が多い場合は200Vがおすすめです。同時に定格使用率で連続使用時間を確認します。インバーター制御搭載タイプは連続作業時間が2倍です。きれいな仕上がりで、スパッタも抑えられます。
送り速度や出力電流切り替えで異なる板厚に対応できるので、デジタルで細かく調整できるものを選択します。
半自動溶接機の使用に適したケース4つ
半自動溶接機の使用に適したケースとして、トラック荷台の溶接、構造物の溶接、グラインダーで仕上げるとき、屋外で溶接するときの4つのケースがあります。
溶接機には様々な種類があり、それぞれの溶接機にメリットとデメリットがあります。半自動溶接機においても同様で、半自動溶接機のメリットを生かせる用途で使用されています。
以下に、半自動溶接機の使用に適したケースを4つ紹介します。
1:トラックの荷台などの溶接を行うとき
トラックの荷台などの修理のために溶接を行うときに、半自動溶接機が使用されます。
半自動溶接は、被覆アーク溶接やTIG溶接と比較して溶接速度が速いというメリットがあります。よって、半自動溶接は、トラックの荷台などの連続して溶接する場合に適しています。
また、フレームなど目に見えにくい部分に使われることも多いです。
2:構造物の溶接をするとき
半自動溶接機は、構造物などを組み立てるときのアングルや角パイプなどを溶接するのに適しています。
スパッタが出るため、半自動溶接はTIG溶接のような綺麗な仕上がりではありませんが、構造物のように溶接個所が多いケースでは、溶接ワイヤーが自動的に供給され、溶接スピードが速い半自動溶接が利用されます。
溶接個所が多い場合に炭酸ガスで溶接部をシールドする半自動溶接機を用いると、被覆アーク溶接(手棒)よりもきれいに溶接できます。
3:グラインダーで仕上げるとき
グラインダーで仕上げるときは、半自動溶接機が使用されます。
先述のように半自動溶接機は溶接速度が速いため、溶接を行った後に仕上げでグラインダーを使用する場合は、半自動溶接機で溶接した方が早く生産できます。
溶接個所が多いほど、半自動溶接のほうがTIG溶接より短時間で作業できるので、有利と言えるでしょう。
4:屋外で溶接を行うとき
屋外で溶接を行うときは、ノンガス半自動溶接機を使用します。
屋外で溶接するときは、ガスシールドする半自動溶接機は風の影響を受けるため適しません。ヒュームやスパッタが多くなりますが、ガスを使わず風の影響を受けないノンガス半自動溶接機を使用しましょう。
ノンガス半自動溶接機は、電源と溶接ワイヤー(ノンガスフラックスタイプ)があれば屋外で作業できます。ノンガス半自動溶接の仕上がりは、被覆アーク溶接機(手棒)とほぼ同等です。
半自動溶接機の扱いに資格は必要?
半自動溶接機を用いる業務に従事する場合は、特別教育を修了することが義務付けられています。
職業で溶接する場合は、労働安全衛生法第59条第3項により安全衛生教育が義務付けされています。アーク溶接は労働安全衛生規則第36条3号に特別教育を必要とする業務に該当します。
DIYでは受講も不要ですが、座学中心で機械操作や安全対策も学べるのでおすすめです。
出典:アーク溶接等の業務に係る特別教育とは|東京労働基準協会連合会
参照:https://www.toukiren.or.jp/kousyu_toku_18.html
半自動溶接の専門資格
半自動溶接の専門資格を取得すると、就職に有利です。
溶接の専門資格は溶接技能者評価試験と呼ばれ、一般社団法人日本溶接協会(WES)などがJISやWES規格に基づいて実施しています。
資格の種類は溶接操作によって分類され、半自動溶接は炭素鋼を対象にしたMAG溶接と組合せ溶接、ノンガス(セルフシールドアーク)溶接があります。
評価試験は実務経験が必要ですが、溶接の技能レベルの評価として履歴書に記載可能です。
半自動溶接機を使ってみよう
半自動溶接機は溶接ワイヤーが自動供給されるので、溶接の中では比較的簡単に操作できます。
ガスを使用するタイプとノンガスタイプがあり、使用するガスによって対応する金属も異なります。対象の金属や使用環境、ワイヤーのランニングコストも考慮して本体を選びます。ノンガスタイプはフラックスワイヤーを使用します。
溶接方法の特徴を考慮して、半自動溶接機を使ってみましょう。
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